終わらない冬に笑顔の花を レビュー感想

プレイ
https://www.freem.ne.jp/win/game/32272

スポンサーリンク

レビュー感想

『夕空に落ちた君へ』の作者の新作だが、内容はまさかの恋愛もの。

そして求めていた恋愛物語がここにあった

これを超える恋愛ゲームは他に思い浮かばない。
そう思えるほど、2人の恋愛模様は私に深く刺さり、そして抉られた






本作は良くも悪くもシナリオ一点突破のゲームだ。
例えば演出が上手いとはいいがたいし、隙を探せばいくらでもある。

だけどそれが気にならないほど、セイヤとユキの物語に感情移入し、そしてシンクロした
そもそも恋愛ゲームにここまで感情移入したのは初めてかもしれない。


まず彼らの恋愛描写があまりにもリアルなことに、心底驚かされた。
例を挙げればきりがないほど、どこを切り取っても的確に核心を突いてくる。

だけど当然、そのリアルさは弱ささえも映し出す。
時には目を背けたくなるような、あるいは普段無意識に心の奥底に閉まっている弱さにも入り込み、ここがお前の弱点だと言わんばかりに、ピンポイントで刺してくる

その正確に抉ってくるさまには、まるで自分の心が見透かされている感覚すらあった。
同時にこの気持ちを理解してくれて嬉しいという感覚も、またあった。
この感覚にまで到達したゲームは、主人公と最もシンクロした『貴方の価値を教えてくれ』以来かもしれない。






ストーリーにも少しふれると、主人公のセイヤが神殿から出られないユキを救う物語だ。

実をいうと、この物語で2人が一緒にいるシーンは回想とラストのみ。

一見物足りなく感じそうだけど、本作はこれでいい。
2人の関係性を理解するには今の描写だけで十分だし、余計な味付けは不要。
そもそも離れ離れだから会いたいと想うことそれ自体も、立派な恋愛描写だ。

本作はそういった些細な描写を入れるのがとても上手かった。
中でも冒頭の命を顧みず塔をよじ登ろうとする場面は、記憶に残り続けるであろう名シーンだ






難点も挙げると、ユキには不老不死という設定があって、それも恋愛の話に関わってくる。
だけど他と比べて、不老不死に葛藤するところだけ解像度が低くて、没入感が削がれてしまった。

ちなみに恋愛以外の部分にもエンタメ寄りの設定が色々盛られてるんだけど、そっちは逆にプレイのモチベーションになって良かった。
終盤から次々と明かされていく衝撃の事実は、純粋にミステリーや人間ドラマとしても面白かったし、少しだけ『四ツ目神』を彷彿とさせるものがあった


もう一つ挙げると、この手の物語は登場人物の境遇が辛ければ辛いほど、ラストが強く光り輝く。
その意味で主人公のセイヤの辛さがほとんど描写されてないのが勿体なく感じた。
例えば村の人間は下に見られてるとか、父の死因は過労だけど逆に責任を負わされたとか、何でもいいので具体的なエピソードがあってほしかった。

とはいえ「具体的に描くまでもなく伝わる」と言われればその通りだし、そこまでいくと創作の方向性や好みの問題かもしれません。


……最後に言うと、他の人もこのゲームに深く感情移入できるかは、正直分かりません。

刺さるかどうかは、自身の愛で確かめてほしい。






A 80点