しかくの勿忘草 レビュー感想

プレイ
https://store.steampowered.com/app/3435270/_/

実況
https://www.youtube.com/playlist?list=PL_P_LqURxB4PjC1d_dr4HrEfDLi5F46nA

スポンサーリンク

レビュー感想



長い歴史の中で星の数ほど創作されてきたフリーホラー。
そのマイベストは人それぞれあるだろうけど、各々の選んだ1位はもう簡単には変わらない。

自身のそれも2017年からずっと『絆輝探偵事務所』のままだ。
最近では「これが変わることはもうないんじゃないか」と、諦めに近い気持ちも芽生え始めてた。

……だからこそ、8年間不動だったマイベストフリーホラーが、しかくの勿忘草に変わったことは、本当に嬉しかったし夢見心地な気持ちだった。






早速このゲームの良さを語っていきたいけど、内容はオーソドックス。
閉鎖空間に閉じ込められた主人公たちが、「探索、謎解き、追い駆け」に挑み脱出する。
他にこれといった特徴はなく、まさにフリーホラーお約束のド直球。

逆に言えば、それだけ正統派フリーホラーとして完成度が高い

怖さや難易度は昨今のマイルドなホラーとは一線を画してるし、かといって昔のような過剰さもない、丁度良い塩梅。

ボリュームは探索ADVとしてはかなりの長編で、プレイ時間は10時間前後
長編フリーホラーは希少だし、何より長編になった分、内容に厚みや奥行きが生まれてる。






中でも本作最大の売りは、やはりストーリー。
特にしかくの勿忘草は友情と家族の両方に特化してるところが非常に秀逸。

本作の主要キャラは探索ADVの中では多めの7人なんだけど、彼らの素朴で優しさのある友情が眩しかった。
他に準主要キャラのような人たちもいるけど、友情という意味ではやはりこの7人がメインだ。
台詞回しのレベルも高くて、感動詞が多めで賑やかな感じが、小説や漫画では使えないゲームならではの表現のように感じられた。

本作は探索パートと回想パートが交互にくる感じで進んでいく。
それ自体も珍しいけど、特筆すべきは回想パートで繰り広げられる主要キャラの親たちの動向。
まさか主要キャラ7人全員に家族にまつわる固有のストーリーがあるとは、予想もしてなかった。
そしてその内容は本編以上に残酷で、終わってみれば醜くも美しい人間ドラマだった。

更に付け加えれば、モブキャラたちも魅力的。
実は本作には閉鎖空間の中に街があり、記憶体と呼ばれる個性的な住民たちと交流できる。
この記憶体は他のホラーでいう霊のような存在で、フリーホラーのツボをしっかり押さえてる。






気になったところも書くと、記憶体の扱いが良くなかった。
結局彼らは助けられなかったし、助けられないにしても交流や別れはもっと丁寧に描いてほしかった。
あとがきで「実は助ける方法はあった」と明かされたのも残念。

人を選びそうなところも挙げると、本作は全体的に荒削りではある。
個人的にはそこまで気にならなかったけど、内容よりも完成度を重視する人は気になるかもしれない。

とはいえ本作がもっと高い次元で洗練されてたら、評価は更に上がってたのも確かだ。






最後に総評を書くと、本作はフリーホラーが好きな人に限らず、多くの人にプレイしてほしい。
むしろフリーホラーに疎い人こそプレイして、沼にはまる第一歩になってほしい。
……そう思えるほどのポテンシャルを本作は秘めてる。

そして個人的な視点で言えば、本作こそが新たなマイベストフリーホラー
本作がそれに選ばれたのは、『墨染楼閣』をプレイしてできた下地があったことも大きな要因かもしれない。

いずれにせよ、これでやっと『絆輝探偵事務所』の呪縛から解放される……。






A 85点

スポンサーリンク

考察

ここからはネタバレありで考察を書いてみる。
というのも、このゲームには作中では語られない考察の余地が色々ある


その最たるものはタイトル。
実はこれ、プレイ中は伏字が使われてるくらいにしか思ってなくて、いまいちに感じてた。

だけどタイトルに隠された真の意味に気付いた瞬間、評価が180度変わった。
具体的には「国」という字は「囗」とも書けることに、ふと気付いた。
まさかトゥルー後のタイトル変化も含めて、全てが一本の線で繋がってたとは。

そしてこれを示唆するヒントは作中にない。
恐らく自分から積極的に考察しなければ、謎の存在にすら気付けない。
だからこそ、これに気付いた瞬間は、鳥肌が立つほど高揚した。






他にも「詩月の使った時の能力」「統の心境の変化」「禍々しいゲートと異空間」など、作中で語られてないことは多い。

時の能力に関しては「舞の能力が国主を介して継承された」という感じだとは思う。
だけどそんな重大なことが後日譚でも一切触れられてないことには違和感がある。


……正直に書くと、いくつかの作中で語られなかった部分は、続編への布石じゃないかと思った。
というのも、トゥルーまでプレイしても「本当にこれで全て終わったのか」という気持ちが拭えない。

もちろん本当にこれで終わりで、続編はないのかもしれないけど。






最後に補足すると、今回の記事で使った「フリーホラー」の範囲は2D探索ホラー。

つまりノベルである『墨染楼閣』『四ツ目神』や、探索メインとは言いがたい『貴方の価値を教えてくれ』などは、あえて除外してます。

そしてもしフリーホラーに対して「様式美」という批判があるのなら、それは受け入れないとだと思ってます。