プレイ
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実況
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概要
全5作からなる愛病世界シリーズ。
2017年に連載が始まり、2020年に無事完結を迎えた。
2023年7月には1作目のリメイク版が公開され、進化は今も止まらない。
総評としては、既存のランク付けでは評価が困難なほどの名作でした。
それこそ、これを上回る個人制作のゲームは、恐らく今後10年間は出てこないのではと思えるほどでした。
愛病世界I ゼーメンシュ-After/Beforemath-
人魚博士の豪傑は、ある日ツノナシ人魚のマイと出逢う。
訳あって同居している4人にマイも加わり、5人の生活が始まる。
ラストで悲劇が訪れることを予め知った上で始まる、切なくも美しい物語。
ジャンルは当サイトではあまり取り上げる機会のない日常もの。
途中で多少の事件は起こるものの、あくまでメインは5人の等身大の日常。
一方で本作は何も起こらない話に耐性のない私がプレイしても全く退屈しなかった。
そしてそう感じた理由は、5人がそれぞれ目の前の課題に真剣に向き合おうとしてたからなんだろうな。
だからこそ色々な困難や葛藤があっても、皆幸せそうなのが伝わってくる。
これはシリーズ通しての評価でもあるけど、現代人が求める理想がこの愛病世界からはいつも垣間見えて、それが刺さるんだよね。
だが予告通り、彼らの幸せな時間は終わりを迎える。
しかもそれはプレイヤーの手で終わらせなければならず、そうしない限り日数が無限に経過していく演出が、とても残酷だった。
結末も覚悟はしてたけれど、まさかここまでとは……。
読了して最初に思ったことは「美しすぎる」だった。
その感覚は実際にプレイして、自身の感性で味わってほしい。
(B 75)
愛病世界II 実に花なり捜査部よ-Brother In Arms-
なくしものを探して持ち主に返す部活動、捜査部。
そんな彼らが、哀病の事件とそれを巡る戦いに巻き込まれていく。
前作ゼーメンシュの続きだが、実は2からプレイすることも可能。
具体的には「2⇒3⇒1」や「2⇒1⇒3」の順でもプレイでき、飽きっぽい人は「2⇒3⇒1」の順がおすすめ。
前作の日常ものから打って変わり、いよいよ戦いが始まる。
哀病の解明を目的とするヘーメラーと、哀病の発症を目的とする狩人。
並行世界の人間が眠るかどうかは、彼らの勝敗によって決まる。
とはいえ実際のところ、この戦いが何なのかこの時点ではまだぴんとこない。
一方で「哀病とは何なのか」や「哀病を巡って何が起きてるのか」を、早く知りたくて仕方がなかった。
そう思わされた理由は色々だが、一つにはやはり哀病の特異な症状、つまり設定があった。
「ある一人が死ぬと、同じ名を持つ何千何万もの人間が二度と目覚めない眠りにつく」
こんな設定を見たことがある人なんて、そういない。
前作では最後にちらっと説明が出ただけだった哀病。
それが今作では実際に発症して、その瞬間に立ち会うことになる。
ひいては哀病発症のトリガーとなる人物、ヒュプノスが殺される現場にも出くわす。
ここで驚きがあったのは、人を殺すのは敵側の狩人だけでなく、味方サイドのヘーメラーも同じだったことだ。
だから彼らを単純な正義の味方として見ることはできない。
けれど、だからこそ深く刺さるものが今後出てきそうな予感があった。
(A 85)
愛病世界III サイケデリック・ウーファー-Coloration-
本シリーズもいよいよ折り返し。
設定の下ごしらえが終わり、物語はダイナミックに動き出す。
そしてこのサイケデリック・ウーファーからが、愛病世界の本番といっても過言ではない。
舞台はデスゲームが日常的に行われてるカシノ世界。
実際にワードウルフなどのデスゲームに挑むことになる。
端的にいって、今作はデスゲームものが好きな人に強くおすすめしたい名作だった。
前作までとは違い、今作からは実際にヘーメラーの組員として動くことになる。
それによって入ってくる知識や、できることが一気に増えた。
中でも前作までは遠い存在だったワールドトラベルが、今作からは普通に移動手段として使うようになったことには、連載ものならではの感動があった。
同時にプレイヤーの視点でも、ここからは明確に哀病の解明が目的になる。
それによって哀病に対する見方も「人智を超えた不気味なもの」から「叡智を結集して解決すべき問題」に変わっていくんだけど、その変化が本当にアツかった。
これまで訳も分からず翻弄され続けてきた哀病に対して、遂にここから反転攻勢が始まると思うと、わくわくせずにはいられなかった。
だが戦いの舞台は全並行世界なだけあって、一筋縄ではいかない。
並行世界というと、ちょっと線がずれた世界を想像しそうになるけど、この物語においては全然そうじゃない。
どの並行世界にも強烈な個性があって、時にネジが外れたように残酷な一面を見せる。
だけどそれに負けない個性と強さを持ち合わせたヘーメラーの組員達。
今作の主人公、才華はサイコな殺人鬼で、命賭けのカジノにも臆せず挑んでいく。
何よりそんなサイコキラーの才華を利害関係なしに受け入れるヘーメラーの在り方は、本当に深く刺さった。
それこそ、刺さり度だけでいえば、シリーズ全体でもあのシーンが一番でした。
(S 100)
愛病世界IV 象牙の塔-Decode The Words-
人の皮をつなぎあわせてできているという象牙の塔。
その100階に到達した者は、必ず発狂する。
そんな塔を昇っていくのが今作のヘーメラーに課せられた任務。
しかも象牙の塔内には複数の並行世界が存在してて、不思議の多い愛病世界の中でもひときわ不思議な空間。
一階ずつ上っていく絵面も相まって、まるで不思議なダンジョンみたいだ。
この作者はこういった奇妙な建造物を攻略していく話を書くのが本当に上手い。
今作に入り、今まで散りばめられてきた伏線が畳まれ始めた。
中でも驚かされたのは、2の主人公だった絢爛の正体。
よくよく考えれば気付くことだっただけに、やられた感もあった。
ヘーメラーがあれだけ忌み嫌ってた狩人を殺さず捕虜にする展開にも本当に驚かされた。
その理由も「哀病撲滅組織ではなく狩人撲滅組織になり始めてる」という至極真っ当なもの。
そんなこんなでヘーメラー達は塔の頂上に辿り着き、無事帰還できた……かのように見えた。
ここにきて愛病世界シリーズ最大の見せ場が訪れる。
〇〇の死には本気で泣いた。
何より化け物になってでも仲間を助けようとした欺人の姿に心打たれたし、この物語の主人公はやはり彼だと改めて認識した。
だがその力も及ばず、欺人と共に帰還できたのは最期のメッセージ、録音された声だけ。
それでも残された人の心は大きく変わる。
こんなに悲しいのに、泣ける理由は決して悲しいからだけじゃないところに、このシナリオの聡明さが端的に表れてる。
そんな感動も束の間、悲劇を通してある真実に辿り着く。
実はこれまで物語の節々に些細な違和感を色々感じてたんだけど、まさかそれらが全て意図されたもので、ここで一気に繋がってくるとは。
正直「個人制作だし、そこら辺は勢いで作ってるんだろうな」くらいにしか思ってませんでした。
そして不老不死になった欺人が死ななければ、全並行世界が滅亡する事実が判明。
悩み抜いた末、欺人は自己犠牲を決意し、組織の離反。
最終章の5に向けて歯車が動き始める。
(S 100)
愛病世界V 全てが愛に至る-Euphoria-
遂に迎えたシリーズ最終作。
話のスケールはとにかく壮大で、全並行世界の命運がヘーメラーに委ねられた。
ここで重要なのは、決して最初から壮大だった訳じゃないことだ。
『ゼーメンシュ』では、何気ない日常が描かれる。
『実に花なり捜査部よ』では、事件を通して愛病やそれを巡る戦いが明るみになる。
『サイケデリック・ウーファー』では、実際に組織に入って戦いに加わる。
『象牙の塔』では、色々な並行世界を訪れるようになる。
『全てが愛に至る』では、色々な並行世界に自由にトラベルできるようになる。
そんな風にプレイヤーの「もっと世界の外側が見たい」という欲求に呼応するように、話が進むごとに少しずつ世界が広がっていくところが、愛病世界のシナリオの聡明さの一つだった。
今作のヘーメラーの目的は、離反した欺人の殺害。
対する欺人は意図的に自身に憎悪を向けさせようと、あの手この手で翻弄してくる。
それも生半可な演技ではなく、時には大切な人に手を出すことすらあるんだけど、内心ではそれを心苦しく思いつつ実行してるのが切ない。
けれどそれもこれも大切な仲間の命を守るため。
だが結局のところ、不老不死が死ぬ方法を見付けることはできなかった。
実はこの辺りで「世界の終わりを受け入れる結末なんだろうな」と正直思ってた。
だがそんな予想を覆す、あの結末。
最後の最後まで刺してくる、タイトルに偽りのない愛のある終わらせ方だった。
(S 100)
総評
終わってしまった……。
個人的には一つの時代が終わったという感覚だ。
概要にも書いた通り、本作は既存のランク付けでは評価が困難。
なぜならただ満点を付けてしまうと、相対的に他の作品の評価を下げざるを得ないからです。
そのため今回はやむを得ず、カンスト超えの点数を出すことにします。
ちなみにこの点数を出したことは他の媒体で1度だけありますが、ゲームでは初めてです。
S 105点